どうも、ラノベ作家の片沼ほとりです。
いきなりですが宣伝です。
先日、新しい本が世に出ました!
『コンサルたちの憂鬱 転職無限ループ脱出マニュアル』(松本昌平 著)

ぜひチェックしてみてください!
……はい、ビジネス書です。
「小説やコミカライズじゃないんかい」とツッコまれそうですが、さっそく種明かしをしますと……。
正確にはこの本は僕の著作ではなく、表紙にも「片沼ほとり」という名前は出ていません。
この本は、中身がストーリー形式になっているビジネス書でして、僕はその小説パートをお手伝いさせていただきました。
著者の松本昌平さんは、非常に面白い経歴の持ち主です。
京大を卒業してキャリア官僚になった後、外資系コンサルのボストンコンサルティンググループに転職し、現在は芸人をやられているという異色の経歴を持っています。
そんな松本さんが書かれたのが、今人気を集めているコンサル業界に対して「本当にコンサルでいいの?」「東大生や京大生が何も考えずにコンサルを選んでいるけれど、本当にそれでいいの?」と問いかけるキャリア論の本です。
本全体は2部構成になっていまして、第1部がストーリー形式、第2部が解説パートという構成になっています。
第1部では、キャリアに悩むコンサルタントを主人公にした物語が展開されます。
今回は、なぜ僕がこの仕事に関わることになったのか、具体的に何を担当したのか、そして実際にやってみて僕が何を感じたのか、という舞台裏をお話しします。
この記事はPodcastで話した内容を元にしています。
音声で聞きたい方はこちらをどうぞ。

25.新刊が出ました! ビジネス書です!(え?) - ラノベ作家はいいぞ
小説パートでご協力させていただいた『コンサルたちの憂鬱 転職無限ループ脱出マニュアル』はこちら!(画像をクリックするとAmazonに飛びます)(文芸みたいな表紙だけど中身はラノベです)
ココナラに届いた「ビジネス書をストーリー仕立てにしたい」という相談
すべての始まりは、ココナラに届いた1件の相談でした。
以前、僕はココナラでサービスを出品していた時期がありました。
ラノベ作家を目指す方の相談に乗ったり、持ち込まれた原稿を読んでアドバイスをしたりするサービスです。
そこに、著者である松本さんからメッセージが届きました。
「自分でビジネス書を出すことになったのですが、ストーリー仕立てにしたいと思っています。自分はストーリーを書いた経験がないので、小説家の方にアドバイスをいただきたいです」と。
最初にお話を聞いたときは、かなり驚きました。
「そんな依頼がココナラで来るのか」と。
松本さんが僕を選んでくださった理由は2つありました。
1つは、ラノベ作家なら楽しい文章を書いてくれるだろう、という期待です。
もう1つは、お互いに京都大学の出身だったという共通点でした。
松本さんから、考えている本の内容とストーリー案を見せていただきました。
コンサルのあり方を問う本で、主人公がいて、ヒロインがいて、アドバイザー役がいて、という初期の構想です。
拝見して、僕の中でアイデアが次々と湧いてきました。
「物語をもっと面白くするという観点で見れば、ここはもっと良くできますよ」とお伝えしたのです。
その場で即興のアドバイスを始めました。
「この人物はこう設定した方が物語として面白くなります」
「ここはこういう展開にして、最後にこういう起伏をつけた方が読者が引き込まれます」
すると松本さんから、「やはりプロの方とは作るものが違うと思うので、ぜひ協力をお願いします」と言っていただき、正式に協力することになりました。
こんな形で仕事が始まることもあるわけです。
ラノベ作家をやっている方は、ココナラなどに看板を出しておくだけでも面白い案件に出会えるかもしれません。
僕が担当したのはプロット 本文を書いたのは著者の松本さん
この本の中で、僕が何を担当したのかをお話しします。
本全体の半分ほどが小説パートなのですが、僕が全文を書いたわけではありません。
僕が主に関わったのは、プロット(設計図)の作成です。
僕が作ったプロットをもとに、本文は松本さんご自身が執筆されました。
そして上がってきた原稿に対して、文章を小説らしく整えたり、読みやすさを調整したりする仕上げを僕が担当しました。
あくまで松本さんの本ですので、表紙の著者クレジットなど、僕が表に出る形にはしていません。
聞いたところによると、あとがきで名前を出してくださっているそうです。
発売されたばかりのタイミングでこの記事を書いているので、僕の手元にはまだ献本が届いていません。
届いたら実際に紙の本でめくって読んでみるのを、楽しみに待っているところです。
なぜ受けたのか 「やったことがないこと」しかやりたくない
では、そもそもなぜ僕はこの依頼を引き受けたのでしょうか。
理由はシンプルで、やったことがない新しいことに挑戦してみたかったからです。
僕は元々、新しいものが好きな性分です。
新人賞で受賞した3作もすべてジャンルが違いますし、1度やり終えたことよりも「次は別の新しいことをやりたい」と考えてしまうタイプなのです。
「ビジネス書の小説パートを作ってみませんか」というお話をいただいたとき、直感的に「自分なら書けるな」と思いました。
僕自身、普段からビジネス書をかなりたくさん読む人間です。
ビジネス書とはどういう本で、どういう構成になっているのかが頭に入っていました。
キャリア論についても同じです。
僕自身は新卒11か月で会社を辞めている人間ですから、偉そうにキャリアを語る資格なんてまったくないのですが……。
ですが、世間で語られているキャリア論がどういう文脈を持ち、どういう構造になっているかは理解していました。
「一度やり終えたものより次をやりたい」という性分と、ビジネス書の文脈を理解していたことが、この仕事を引き受けた一番の理由です。
ビジネス書のテーマから物語を逆算する、という初めての作業
実際に制作が始まると、僕にとっても初めての経験の連続でした。
普段の小説であれば、自分が書きたいテーマや思いついたキャラクターから自由に物語を膨らませていきます。
しかし今回は、ビジネス書としてのテーマが先に存在していました。
「こういうテーマがあり、読者にこういう結論を届ける」という着地点が決まっています。
そこから物語を逆算して組み立てる必要がありました。
結論が決まっているということは、最後に起こる出来事も決まります。
そして最後にその出来事を起こすためには、主人公の初期状態をどう設定しなければいけないか、という道筋が一本につながっていきます。
この逆算の作業が、非常に新鮮でした。
松本さんからのオーダーは「読み味は軽くていい、むしろラノベっぽくしてほしい」というものでした。
そこで僕は、「では、超常現象を入れましょう」と提案しました。
主人公のもとに神様がやってくる、という大胆な設定を持ち込んだのです。
物語を面白くしてほしいと言われたので、僕の側で一旦思い切り振り切った案を出しました。
主人公の個性を強烈にして、コメディタッチの尖ったキャラクターにしたのです。
ラノベ作家の本領を発揮しようと考えたわけですね。
ただ、その案を松本さんが編集者さんと相談した結果、フィードバックが戻ってきました。
「主人公の個性が尖りすぎているので、ビジネス書を読む読者層にもう少し寄り添った形にしましょう」と。
僕も「なるほど、おっしゃる通りですね」と納得し、バランスを調整していきました。
僕がプロットを書き、OKが出たら松本さんが本文を執筆します。
そして1章書き上がるごとに僕がチェックして方向性を確認し、最後に僕が手直しをして完成させる、という二人三脚で進めていきました。
僕が持ち込んだのは「キャラの尖り」と「神話の法則」
この仕事で僕に求められていたのは、何よりも「物語としての面白さ」でした。
そのために僕が持ち込んだ武器は、2つあります。
1つは、キャラクターの尖り(個性)です。
松本さんが最初に持ってこられた案は、物語としては成立していましたが、キャラクターの個性が少し大人しい印象でした。
そこで、ヒロインのキャラクターをかなり濃くすることを提案しました。
さらに、キャリアに悩むコンサルタントである主人公に対して、導き手となる師匠役を配置することにしました。
紆余曲折の末、その師匠役は「猫耳美少女」という設定に落ち着きました。
ビジネス書の中に猫耳美少女の師匠が出てくるわけです。
なかなかのインパクトがあるはずです。
(アニメ調の表紙になると聞いてたんですが、表紙見て「大丈夫か……?」ってなってます。大丈夫か……?)
もう1つの武器が、ストーリー構造です。
物語の型として、作家にはお馴染みの「神話の法則(ヒーローズ・ジャーニー)」や三幕構成があります。
主人公が日常で悩み、導き手(師匠)に出会い、最初は躊躇しながらも覚悟を決めて旅立ち、数々の試練を乗り越えて変化していく、という王道のテンプレートです。
この構造はあまりに使い古されているため、現代のライトノベルではむしろストレートには使われません。
ですが、今回のビジネス書においては、この王道の型が抜群に機能すると判断しました。
この構造を使えば、物語のテーマとビジネス書のテーマが綺麗に重なり合います。
作家が持つキャラクター作りの技術とストーリー構造の知識は、ビジネス書の小説パートでも強力な武器になりました。
物語を作る力は、小説以外の仕事にそのまま効く
今回の本を書き終えて、改めて強く実感したことがあります。
物語を作る力は、小説以外のどんな仕事にも応用できる、ということです。
長い文章というものは、一定の物語性がなければ面白く読めません。
ライトノベルを1冊丸ごと書き切る力があれば、世の中の大抵の文章は面白く書けるのです。
(自画自賛も含んでいますが、率直にそう思いました)
実は最近、この本以外にも物語創作とは直接関係のない企業のお手伝いをする機会が増えています。
おかげで結構忙しく過ごしているのですが、そこで求められているのもまさにストーリーの力や文章の力です。
例えば、Wantedlyという求人サイトに掲載する社員ストーリーの執筆を依頼されることがあります。
求職者が読んで「この会社に応募してみたい」と思えるような、社員のインタビュー記事です。
あるいは、商品の販売ページ(セールスページ)の構成を手がけることもあります。
こうした仕事に取り組むたびに、ラノベを書いてきた経験がそのまま役立っていると感じます。
物語の本質は、キャラクターとストーリーです。
ですが、その一段下にあるのは読者の気持ちを理解すること、すなわち人間理解に他なりません。
「読者は今どういう感情を抱くだろうか」
「どういうキャラクターなら感情移入してもらえるだろうか」
「どんな展開を用意すればハラハラして次のページをめくってくれるだろうか」
作家は、読者の心の動きを四六時中考え続けている仕事です。
社員インタビューを書くときも、まったく同じ頭の使い方をします。
「求職者は今何を知りたがっているだろうか」
「どういう理由でこの記事を読みに来ているだろうか」
「それなら、冒頭にこの過去のエピソードを持ってきて共感を作ろう」と組み立てていくわけです。
販売ページでも、「どういう心理の流れを辿れば欲しくなるか」を逆算して言葉を配置します。
物語創作で培った人間理解の力は、ビジネスの現場でもそのまま通用するのです。
この領域は、まだAIには奪われない
そしてもう1つ、現場で強く感じていることがあります。
この「人間の心理を読み解いて文章を組み立てる領域」は、まだしばらくAIには奪われないだろう、ということです。
社員のインタビュー動画をもとに記事を書いたり、商品のデータを入力して販売ページを作ったりする作業は、一見するとAIが得意そうに見えます。
ボタンを1回押せば、それらしい文章を出力してくれそうに思えるはずです。
実際、AIに指示を出せば形になった文章はすぐに出てきます。
しかし、その文章を読んでも、人間の心理が捉えられていないのです。
「ここで読者はこう感じるはずだから、このタイミングでこんなことを書いてはいけない」
「この順番で情報を出されても読者の心は動かない」
結局、人間がそうしたダメ出しをして、大幅に手直しをすることになります。
プログラミングなどの領域と比べると、人の心を動かすための文脈や構成の判断は、AIに侵されていません。
まだまだ人間の作家の力が必要とされている領域だと実感しています。
まとめ:物語が書ければ、仕事はある
というわけで、ビジネス書の小説パートを担当したお話から、物語を作る力の可能性について語ってきました。
よく「ライトノベルや小説だけでは食っていけない」という話を耳にします。
それはある意味で事実です。
ですが、僕がよくお話しするのは、物語を書く力があれば別の道もたくさんある、ということです。
例えばラノベ作家になった後、シナリオライターの会社に会社員として所属して、物語を書く仕事で安定して生きていく道もあります。
そして今回お話ししたように、企業の文章を書いたり、セールスライティングの構成を手がけたりと、物語を書く技術を転用できる仕事は世の中にたくさん存在します。
読者にとって面白い物語を書く力は、意外なほど食いっぱぐれないスキルになるのです。
もしこの記事を読んでいる作家志望者の方がいらっしゃれば、ぜひ「読者の心を考えること=人間理解」として物語作りに向き合ってみてください。
それは小説の中だけでなく、小説の外の世界でもあなたを助けてくれる強力なスキルになるはずです。
最後にもう一度宣伝です。
小説パートも非常に読み応えのある面白い仕上がりになっていますので、ぜひチェックしてみてください!
『コンサルたちの憂鬱 転職無限ループ脱出マニュアル』(松本昌平 著)

これからも新しい挑戦を続けながら、得た学びをどんどん発信していきます。
それではまた。




