こんにちは、片沼ほとりです。

先日、僕がやっているPodcast「ラノベ作家はいいぞ」の特別回として、シナリオライターの空見こはくさんをゲストにお迎えした対談を収録しました。

空見さんはラノベ作家ではなく、株式会社ビジュアルアーツでソーシャルゲーム「ヘブンバーンズレッド」のシナリオを担当しながら、別IPのディレクションや漫画原作の仕事もされている方です。

「ラノベ作家はいいぞ」と銘打っておきながらラノベ作家ではないゲスト——というのには理由があります。

僕のコミュニティのメンバーからもよく聞かれる質問のひとつに、「創作を仕事にして生きていくにはどうしたらいいか」というものがあります。普通は副業で創作をしつつ別の仕事で生活を立てる、というのが現実的。でも「創作一本で生きていきたい」という方も少なくありません。

その選択肢として、シナリオライターというルートはわかりやすく、しかも会社員としての安定も持てる 理想的かつ安定的なルート。それをまさに歩んでいる空見さんに、現場の話を聞かせてもらいました。

対談は約50分。本記事はその内容をブログ用にテキストで整理したものです。ぜひお読みください。

↓Podcastのアーカイブ・文字起こしはこちら。

空見こはくさんの自己紹介

片沼:まずはざっくり自己紹介をお願いできますか。

空見:空見こはくと申します。さっき片沼さんから紹介あった通り、僕はラノベ作家ではなくて、いまはゲームシナリオライターとゲームディレクターをやっています。

職業としては普通に会社員、サラリーマンですね。株式会社ビジュアルアーツというところで、主にヘブンバーンズレッドというソーシャルゲームのシナリオ制作に携わらせていただいています。

それから、今月漫画の原作が出るので、初めてそこでシナリオライター以外でデビューさせていただくというところです。

現在の活動媒体はほぼ会社の仕事がほとんど、というところですね。

片沼:ヘブバンのシナリオをやってるって言うと、結構すごいって感じですけどね。僕、初めて聞いたときは「おお、あのゲームが?」みたいな。

空見:いやそうなんですよ、3〜4年前は僕も遊んでる側だったんで、まさか自分がヘブバンのシナリオに携わるとは全く想像もしてなかったんですけど、いつの間にか書く側に回ってたと。

なぜ空見さんを呼んだか — 創作一本で生きるルート

片沼:今回ゲストにお呼びした理由なんですけど、コミュニティの人からよく聞かれるんですよね、「創作を仕事にして生きていくにはどうしたらいいか」みたいな話。

普通は会社員をやって、副業で創作を始めますみたいなのが多いんですけど、創作一本で生きていきたいっていう希望もありますよね。

でもラノベ作家一本っていうのはなかなか難しい。じゃあ創作一本でやろうとしたときの選択肢として、すごく分かりやすいのが シナリオライターに転職する っていうルートなんですよ。

会社員としての安定を持ちながら創作で生きていける、理想的で安定的なルート。それをまさに空見さんがやっているのを見てきたので、こういうルートを薦めることが多いんです。

空見:そうですね、なるほど。確かに僕、もともと創作に使う時間を増やしたかったっていうのがあるのと、あと僕めちゃめちゃやりたくないことがすっごいある人間なんで。

あんまりこういうこと言うと反感買うかもしれないですけど、たぶん僕より創作が好きな人ってたくさんいると思うんですよね。でも僕より嫌いなことが多い人は、そうそういないんじゃないかなっていうぐらい、やりたくないことがめちゃめちゃあるんですよね。

仕事をしたくない、働きたくない、やりたくないことがめちゃめちゃ多い中で、創作に関してはやりたくないことじゃない、っていうのが僕の中では結構大きい。

文章を書くことはそこそこ好きなんで、こういうゲーム面白そうなんじゃないかとか、こういう遊びやったらいいなとか、そういうのを考えるのが僕にとっては苦ではない。

そこそこ楽しくやれてるなっていう感覚があるので、今すごいありがたい幸せな生活を送れてるなと自分では思ってますね。

片沼:めちゃめちゃいいですね。そういう話をどんどん聞きたいということで、今日お呼びしました。

片沼と空見さんの接点

片沼:前提としてざっくり僕と空見さんの接点を説明しておくと、かつて 同じ創作コミュニティ にいたんですよね。

僕もアマチュア時代、空見さんもアマチュア時代に、プロを目指す人が集まるコミュニティがありまして、そこで出会いました。その後、僕はそのコミュニティでいろいろ頑張って新人賞を取り、空見さんも賞を取って——作家としてのデビューはしなかったんですけど、シナリオライターになってということで、結構戦友というか、今では懐かしい話ですけど。

空見:そうですね。会ったときは結構、片沼さんは実行力がもともとある人だったんで、いつかプロになるだろうと思ってたら、あれよあれよという間にプロになられて、本も今何冊でしたっけ? 3冊?

片沼:3シリーズ5冊ですかね。

空見:プロになるだろうなと思ってなってたって感じですね。だから特に片沼さんがプロになったって聞いたとき、僕別に驚かなかったんで、なるだろうなと思ったんで。

片沼:割とそういう反応されること多いですね、コミュニティの人から。

僕も空見さんの文章をコミュニティに入ったときに読んで、「うわー、なんかおもろいなー」って思ったんで、いつかプロになるだろうなと思ったので。お互いそう思ってましたね。


シナリオライターになるまで

片沼:では、シナリオライターになるまでの流れを空見さんに説明してもらってもいいですかね。僕は何回も聞いてるんですけど。

空見:片沼さんのツイートだと「王道ルートみたいなことを書いてた」じゃないですか、新人賞を取って王道ルートみたいな。僕、王道っていうか 本当に運が良かっただけ なんで、これが皆さんにも真似ができるかと言われたら多分難しい、っていうのを前提で聞いていただきたいんですけど。

片沼:タイミングとかはありますけどね。

ビジュアルアーツの未経験募集

空見:いや本当にそうなんですよ。僕、たまたまその時、普通に在宅の仕事をしてたんですけど、ビジュアルアーツが未経験シナリオライターを募集してた んですよ。

たまたまその時、僕いま関西に住んでるんですけど、ビジュアルアーツって関西の会社なので「通えるじゃん」みたいな。「未経験シナリオライター、これ通えるじゃん」って。

しかもその時にビジュアルアーツがやってたキネティックノベル大賞っていう小説の新人賞で、僕は佳作を取ってたんで、「面接ぐらいまでは行けるんじゃないか」みたいな。そこの賞を取ってる人を、いきなり書類選考で落とさんでしょうみたいな考えもあったんで、一回受けてみようかって応募したら、面接まで行けたと。

そこで未経験シナリオライターだったので、新人賞の実績と、小説家になろうに挙げてた小説の漫画化が決まりましたよぐらいの、2つぐらいしか実績はなかったんですけど、その時に面接で「面白い話をしてくれ」って言われて。

面接で闇金の鉄板トーク

空見:これ募集ページに書いてあったことなんで、別に面接で知り得た情報を喋ってるとかじゃないんで。その募集ページに「とにかく面白い話をしてください」って書いてあったんですよ、その未経験シナリオライターのところでは。

しかも面接が、いきなり1次面接の段階で代表取締役の方が出てきて。

「典雲って今言ったみたいな、典雲さんって代表取締役じゃないの?」みたいな。聞いてないんですけど。

代表取締役の前で僕が何を話したかというと——前々職が闇金にお金を借りちゃった人の電話を受けて、闇金と交渉する仕事をしてたんですよ、僕。

片沼:初耳なんですけど、僕も。

空見:そうですか。結構いろいろ面白い経験があって、そこの闇金のいろいろな話をしたら、それがめちゃめちゃ受けたんですよね。バカ受けして。

あとは「弊社の作品で好きな作品何かございますか」って言うときに、「クラナドの藤林杏ちゃんがめちゃめちゃ可愛くて」と。この2つしか喋ってないんですけど、面接で。

「やりたいことはない」で合格

空見:最後に「ビジュアルアーツに入って何かやりたいことありますか」みたいな、よくある質問ですよね。「夢レベルでもいいんで何かありますか」って言われたときに、僕、速攻で「ないですね」って言ったんですよ、まず。第一声で。

「ないですね、今とにかく創作に使える時間を増やしたいです」と。「ほとんど日常の半分以上、普通にやりたくない仕事に使ってるんで、まずは創作に使える時間を増やしたいです。それが増えたら多分やりたいこと出てきます」って答えたんですよね。

僕、その帰り道に「これ落ちたな」って思って帰ったんですけど。「いや、ないはないだろう」と思いながら。

そしたら翌日に合格メールが来て、「あ、受かってる」って言って、メールが届いた15分後ぐらいに当時の職場の上司に「もう辞めます」って言って。「相談があるんですけど、結論辞めるんですけど」とか言って、「急だねー」とか言われて。

片沼:15分で。

空見:そう。15分後ぐらいには辞めるんですけどって言って、辞めて今に至るみたいな感じですね。

片沼:うーん、もうツッコミどころいっぱいあるんですけど。やっぱおもろいな、この人。

前職に受かった理由も闇金トーク

空見:ちなみにその前職に受かった理由も多分闇金の仕事してたからなんですよね。

その面接でも「闇金からお金を借りてしまった人の対応をするんで、まずほとんどのお客さんはパニック状態で電話をかけてきます。なので、まずはパニックを落ち着かせるところから話すんですね。落ち着いてください、今どういう状況ですかって言って」みたいな話をしてから、具体的な契約内容とこっちがやる仕事内容について話して、っていうことをやってましたって言ったら、受かったんですよね、前職も。

片沼:無敵の鉄板エピソードトークみたいになってますね。

空見:めちゃめちゃ面白かったですよ。大丈夫かな、なんか放送禁止ワードとかないですかね。やっぱね、闇金、相手闇金だからね、電話越しに普通に「死ね」とか言われたこともありますしね、闇金と交渉するときに。

片沼:今のはカットしないんですけど。まあその話はだいぶ気になるんですけど、後で個人的にするとして。

キネティックノベル大賞からビジュアルアーツって、ビジュアルアーツのフットワークの軽さがすごいですけどね。

空見:そうですね、よく取ったなって思いますね。

整理:王道ルートと再現性ゼロのエピソード

片沼:整理して話すと、僕が「王道ルート」って言ったのは、新人賞を受賞してその実績を使ってシナリオライターの募集に応募して、シナリオライターに転職する——これ自体は割と王道だと思うんですよね。就職、正社員として入るかはともかくとして、業務委託としてやるとかですね。

それは王道で、空見さんはたまたまキネノベというビジュアルアーツがやってる賞を取って、そのタイミングで未経験シナリオライターの募集があって、というたまたまはありつつ、そして 再現性ゼロの鉄板エピソードトーク というところはありつつ。

そこからいま楽しくシナリオライターをやってる、というところは皆さんに役立つ話かなと思いますね。


シナリオライターになる方法

空見:僕からはどうやったらシナリオライターになれますか、みたいな話とかしたほうがいいんですかね。

片沼:確かに気になる人いますよね。なんか話せることあったらぜひ。

実力主義・募集フォームから応募

空見:僕、シナリオライターとしていろんな会社を点々としてるわけではないので、これっていうのは正直言えないんですけど、基本的に会社の募集フォームがあるんですよ。シナリオライターを設けてるところ、欲しがってる会社さんはそういう窓口があるので、そこにこれまでやってきた作品を載せて応募する。

そこで「この人書けるじゃん」って思われたら、本当に良くも悪くも実力主義なのでシナリオライターは。

なので、その会社が求めるシナリオさえ書けるのであれば、学歴だとかこれまで職を点々としてますとかも関係なく、書けるんだったら多分、面接までは少なくともいけると思いますね。

片沼:その辺は作家業も全部そうですね、新人賞だったらそうでしょうし。とりあえず新人賞を受賞して本一冊出しといて、それがちゃんと面白ければっていう。

採用基準はキャラクターを作れる能力

空見:基本的にはシナリオライターになりたいなって言ってなるんだったら、一番いいのは自分が関わったことがあるゲームのライターになるのが、自分のやりたいことに近いんだったらそうかもしれないですけど。

特に何も絞らずにシナリオライターになりたいですっていうのであれば、結構募集している会社さんは割とあるので。

ひとつ、やれたら強いだろうなっていうのが、シナリオを書く能力よりも重要視されているのがキャラクターを作る能力ですね。

シナリオ制作会社さんって今いろいろあるんですけど、所属している人の中でもキャラクターを作れる人・作れない人みたいな、得意・苦手の差が結構あるみたいなんで。

聞いた話だと、今は受けるキャラクターが作れる人が欲しがられているっていうのは聞いてます。

片沼:そうなんですね。つまりそれってゼロから1を作るってことですよね、キャラクターを。

空見:そうですね、ゼロから1。もちろん全くない状態というよりかは、ゲームだったり既存のIPだったり——

片沼:こういうゲームがあって、その中の新キャラって話ですか。

空見:そうですね、ディレクターの方と相談してその人が求めるようなもの。新しくIPを立ち上げます、っていうときはゼロから作ることもあります。

僕のやっているヘブバンはもう立ち上がったものから後から入ってるんで、キャラクターも世界もすでにありますから、それを崩さないようにこれまでのシナリオを踏襲して書くっていう仕事になりますけど、新しくこれからIP作りますよっていう場合はそういうのもありますね。

ラノベ一冊書けると全部の能力の証明になる

片沼:キャラをゼロから作るとか、まさにラノベ作家がやるような仕事ですね。

これ僕、アマチュア作家の方に結構言うことがあるんですけど、ライトノベルを一冊ちゃんと書けると、物語全般について全体的に能力を持っている証明になるって言うんですよね。

空見:それは間違いないですね、はい。

片沼:ラノベ一冊書くって、物語、キャラクター、ストーリー全部一から作れないといけないんで、すなわち「じゃあキャラを作れますか」って言われたら作れます、「文章書けますか」って言われたら書けます、っていう証明になる。

新人賞を取れば、シナリオライターであるとか、なんちゃらライターみたいなのは割となりとできると思ってますね。

空見:間違いなく能力の証明というか、「この人これはできるんだな」っていう一つの例示にはなりますね。

キャラクタービジネスとしての共通点

片沼:でも、キャラを作れる人が強いっていうのはいい話ですね。僕もラノベはキャラが大事だよ、みたいなことを結構アマの方に話してるんで、いつも。

空見:結局シナリオって結構忘れちゃうんですよ、お客さんの中で。よっぽど感動的というか泣けるようなものだったらそこだけは覚えてたりするんですけど、細かいところって結構覚えられない。

なので結局、人気だったり「好き」っていうのがどこに集約されるかっていうとキャラクターに集約される。キャラクターに集約されると何がいいかって、グッズが売れるんですね。

これかなり大事なことなんでグッズが売れるんですよ。

だから会社、IPビジネスとかやる側からしたらキャラクターをとにかく重視するんですよね。シナリオが受けるっていうのはもちろん大事だし、シナリオを入れ込んでもらうこともすごい大事ではあるんですけど、シナリオ単体だとシナリオってグッズにはできないんで、実は。

なので シナリオはキャラクターを魅力的にするためのもの っていう考え方ですね。シナリオライターをやるときも同じです。

片沼:これはラノベにも共通ですね。グッズとかそれこそアクリルスタンドって、もうそのキャラしか描かれてないですからね。物語とか設定とかストーリーとか全部廃して、キャラだけ。それでも欲しいって言わせるのが仕事だと。

まさしくラノベもシナリオライターも、大事なところは同じなんだなっていうのを聞けましたね。

あと、シナリオライターはいつでもそういう会社が募集してて応募フォームが開かれてるんで、応募しようと思えばいつでもできるよっていうのもポジティブな話ですね。

空見:そうですね。選ばなければいくらでもあるかなと思いますね。

片沼:そう考えると、物語で生活していくっていうのはそんなに大変なことじゃないなと。

空見:なった後の大変さがありますよね。

片沼:そうですね。僕は個人的にはやりたいことだったんで、全然苦には感じてないんで。


1日の仕事内容

片沼:話の流れで仕事の中身、シナリオライターって何をやってるのか、入っていきましょうか。

シナリオライターで今会社に所属してるってことですけど、普通のフルタイムの仕事って感じですか?

フルタイム勤務・1日7時間

空見:そうですね、普通にフルタイムですね。これはビジュアルアーツのホームページにも載ってるんですけど、弊社は 1日7時間 なんですよね、労働時間が。7時間プラス1時間の昼休憩。

あと締め切りが近いときはテレワークを申請したり。僕、ちょっと会社まで遠いんで。

なので、1日フルほとんど創作のことに使っている状態ですね。

片沼:いい時間じゃん。

空見:しかも別に仕事してない時間でも、じゃあ創作のこと考えないかって言ったらそんなことないんで。

これまでの仕事は、僕ブルーマンデーとかになったことないんですよね。仕事する時間まで仕事のこと考えなかったんで。だから逆に月曜朝が憂鬱、みたいなのはなかった。考えたくないから。

でもそんな僕が今、普通に業務外、別に何のお金も発生しないときでも考えちゃうんで。

片沼:それがもうクリエイターの適性ですよね。

空見:だから結構、「時給でシナリオライターやりたいです」とか「お金を目標に創作」って向いてないなって僕は感じましたね。向いてる人もいるかもしれないんですけど、僕は無理だなって思いました。お金を追って創作できないなって。

片沼:それもラノベ作家一緒ですね。ラノベ作家って創作に集中できる人じゃないと、お金とか同行以前に10万字とか書けないですね。

ヘブバンの仕事の中身

片沼:具体的にどういうことをするんですか。

空見:ヘブンバーンズレッドに関しては協業作品なんですよね。ビジュアルアーツ・Key と、ゲーム部分は WFS(ライトフライヤースタジオ)さんが作ってるんで。

イベントがいついつありますとか、この日にガチャが実装されますとか、それに合わせてシナリオがこれだけ必要ですっていうのが共有される。それをもとにシナリオディレクターが「この仕事は今あなた空いてますか、他の仕事してないですか」って振ってくる。

なので、そのキャラクターに必要なシナリオだったり、あと戦闘ボイスとかも実はやってたりしますね。キャラクターが攻撃するときのボイスですね。

片沼:それも書かないといけないのか。

空見:ビジュアルアーツに関してヘブバンの仕事は、ゲーム内で必要なキャラクターが発するすべて、シナリオだったりボイスだったり、ホーム画面のタップしたときに喋るやつとか。テキストに関することは大体やっている形ですね。

企画会議・新IP立ち上げ

空見:それにプラスして、今僕の場合だとビジュアルアーツで企画会議みたいなのがあるので。

全ゲーム会社がやってると思うんですけど、「こういう企画をゲームにしたらどうですか」とかを企画書の形にしてプレゼンする。「面白そうだね」ってなって、かつ利益も出そうだねってなったら、そのプロジェクトを動かしてみたり。

片沼:こっちはラノベで言うと編集者っぽいですね。

空見:僕、編集の仕事をそこまでちゃんと把握してないから、適当なこと言えないんですけど。

片沼:僕も適当に言ってますけど。

空見:だいたい、僕はほとんどヘブバン、7〜8割ぐらいはヘブバンの仕事をしながら、残りの2〜3割で別の仕事をしてるっていう形ですね。

片沼:上から降ってくるシナリオ仕事をいっぱい書いて、空いた時間で新しいゲームの企画を考えたり、と。このゲームの企画は通ったらどうなるんですか?

空見:通った内容によるんですけど、例えばAというゲームを作るとして、これだけの人員——10人ぐらい必要だよねみたいなところからチームを作って動いていく。シナリオを作るのか、キャラクターを作るのか、ゲームの仕様を固めるのか、同時並行するのか。ゲームによって作り方がいろいろ変わってくる。

片沼:ディレクター側に回るってことですね。

空見:そうです。シナリオライター兼ディレクターという形ですね。

ディレクター兼シナリオは「あんまりやらないほうがいい」

空見:ただ、やってて思うんですけど、今僕がディレクターになっているゲームのシナリオを僕も一部担当してるんですけど、あんまりやらないほうがいいなって僕は思ってますね。

ディレクターって締め切りとかも、進行管理の人がいるならともかく、スケジュールも把握しないといけないんで、本来は。

なので、例えば自分がシナリオを書いてて終わってないっていう状況になると、他にシナリオ依頼してる人に強く言いにくいんですよね。「お前も終わってないじゃん」って話になるんで。

あんまり、慣れないうちはディレクターはディレクターの仕事だけやったほうがいいなって僕は思ってます。結構大変だなって。

片沼:まあシンプル仕事量も増えるし。

空見:はい、っていうとこですね。

片沼:こういう話、絶対外からは見えない話だと思うんで、すごいありがたいですね。


「自分のやりたいことがやれる仕事」ではない

空見:シナリオライターになりたい人がどれだけいるかわかんないんですけど、あんまりシナリオライターって自分のやりたいことがやれる仕事だと思わないほうがいいかもしれないです。

片沼:ほうほうほう。どんな仕事が降ってくるんですか?

空見:基本的にもう「こういうのが欲しいです」って、要はシナリオライターに仕事を発注する人がいるんですよ。

ラノベ作家だったら、企画から自分で考えるじゃないですか。「こういうのが売れそう」「こういうのが面白そう」って自分から考えるんですけど、シナリオライターとしての仕事はディレクターサイドから求められているものが先にあるので、それに合ったものが作れるかどうかが第一に来る。

例えば、すごい極端な例ですけど、ヘブバンの主人公・茅森月歌(かやもり るか)っていう子がいるんですけど、「茅森月歌の名前を僕が変えたいです」っていうのは意味不明じゃないですか。

片沼:はいはいはい。

空見:こういうことはできないんですよね、要は。すでに求められているものを書く。

僕は書くことが結構好きなんで、今のところ振ってくる仕事に対しても嫌だなというのはないんですけど、「いやでも俺はこういうことやりたいのに」って人はあんま向いてないかもしれないですね、シナリオライターには。こだわりが強すぎると、合わせるのが苦手な人だと、自分一人でどんだけ書けたり本たくさん出してますって人でも、シナリオライターになった瞬間、「この人はちょっとこっちのディレクターサイドの求めるものが上がってこないな」ってなったら、もうこの人にはお願いできないって話になっちゃうんで。

片沼:なるほどですね。ラノベ作家になるにしてもある程度出版社が求めるものを書けて初めてなれはするんですけど、もっとその幅が狭いというか。

言われたことだけでなく+αを出す

空見:ただ言われたことだけやってればいいってわけでもないんですよ、これがね。言われたことをやらないのはいけないんですけど、言われたことをやった上で、言われてないこともやるみたいな形ですね。

向こうは「Aってシナリオを書いてほしい」って言って、じゃあAは書かなきゃいけない。それは向こうがくれって言ってるから。

でも、Aが自分では微妙じゃないか、これお客さんに受けないんじゃないかって思ったら、Aをやりつつ、BもCも用意するみたいな。「頼まれてはないんですけど、こういう形のものも作ったんですけど見てもらえませんか」って見てもらう。

「確かにこっちの方がいいね」ってなる時もあるんで。

片沼:これは普通に仕事ができる人じゃないですか。

空見:僕も今ディレクターとしてシナリオをお願いする側の仕事もやってるんですけど、僕の中にある答え以上のものを書く人が、ごく稀ですけど居るんですよね。

なのでそういう提案力があるといいんじゃないかな、重宝されると思いますね。

片沼:めちゃめちゃ大事ですね。でもそれはラノベ作家も同じ気がしますね。

作家の誰かが言ってたのが、編集者から「ここを直して」みたいなのを言われたときに、それをそのまま直せるのはプロなんだけど、さらに 「これが欲しかったんだよ」みたいなのを引き出せたらさらに一歩上にいける みたいな。

空見:そうですね。

片沼:まさしくそういう話ですね、シナリオも。


創作の時間が幸せ

片沼:空見さん的には、当然ラノベを書いていたというか、ストーリーもキャラクターも全部自分でやって投稿サイトに上げてたみたいな時代もあると思うんですけど、どっちの方が良さ・面白さ・楽しさあるんですか?

空見:そうですね。僕は本当、あんまり深く考えてないというか、書くことそのものが好きだなって感じるんで、どっちの方がより面白いみたいな考え方は特にしてないですね。

オリジナルの方が面白いとか、既にあるもののさらに続きを作る方が面白いとか、あんまりそういう比較してどっちの方が面白いみたいな考え方はしてなくて。

片沼:それに時間を使えればOKって感じですか?

空見:そうですね。僕はそういうスタンスですね。やっぱり 創作に触れてる時間が僕にとっては幸せ だなって思うんで。

片沼:めちゃめちゃ幸せそう。聞いててわかりますもん。楽しそうなんで。

空見:すごい大変だなって思うときはもちろんありますけど、大変だったり、なかなか良い案が出なくて苦しいなって思うこともあるんですけど、それ込みで楽しめてるなっていうところですね。


シナリオライターを続けるためには

片沼:その大変だなみたいな話に付随して、シナリオライターって続けるためにはみたいな話もぜひ。実力主義だからちゃんと作れないとすぐ切られる、みたいな話もチラッと聞くんで。

これも知っとかないとですよね。

書けなくなったら終わり

空見:まず、書けなくなったらシナリオライター終わりなんで、当たり前なんですけど、給料泥棒になっちゃうから。書けなくなったら、書かなくなったら終わりですね、やっぱり。

ついこの間も社内でシナリオの講義みたいなのを受けたんですけど、結局大事なところって、仕事時間以外でどれだけ書くかって言われましたね。

片沼:業務時間「外」労働。

空見:労働っていうか、結局仕事って絶対評価ではないんですよね、実は。相対評価なので。

仕事の時間ってみんな仕事してるじゃないですか。そこで差をつけようって思うとなかなか難しい。だから他の人が休んでたりやってないときに自分はやるみたいな、すごい根性論みたいなこと言ってますけど。

片沼:めっちゃ根性論言ってる。

時間をかけたからいいとも限らない難しさ

空見:創作って面白いところでもあり難しいのが、時間かけたからっていいものができるわけじゃないんですよね。

片沼:その通りですね。

空見:僕も2週間ぐらい時間もらって練り練ったやつが普通にボツって、3時間ぐらいで書いたやつが通る、みたいなことあるんで。「あれ? これでいいんだ」って思うんですけど。

感性を磨く」とかをよく聞くじゃないですか。

片沼:はいはいはい。

空見:僕いまだに感性の磨き方よくわかんないですね。何だ感性の磨き方って思いながら。

片沼:よくわかんないから「感性を磨く」っていう言い方をするんですよ、みんな。

空見:自分が普段見ないようなジャンルの映画だったり話を見て、楽しむための、なんていうんでしょう、多分僕の体の中にそれを楽しむための受容体がないみたいな。ないから何が面白いのかわかんないけど、多分ここが受けてるんだろうみたいな推測するとか。

片沼:いろんな訓練もやってるんですね。

空見:訓練になってるかわかんないですけどね、あんまり身にならんなって僕は感じてるんですけど。

自分の感性と市場の感性が近いほうが楽

空見自分の感性と市場の感性が近いところで戦う方が、多分楽というか勝ちやすいだろうなとは僕は思ってますね。

ないところで戦おうとすると、推測になっちゃうんですよね。これが受けるんじゃなかろうか、みたいな、勘というか肌感が乗らない状態で書くことになる。

続けてったら、それが肌感になることもあるかもしれないんですけど。

片沼:面白い作品をまず自分が見つける、面白いと思うって大事ですよね。

空見:そうなんです。これが面白いって思うかどうかってのは結構大事だと思いますね。

片沼:僕も結構アマチュアさんには「まず自分が好きな作品を見つけろ」って言いますね、商業作品で。特定の作品でもジャンルでもいいんですけど、「このジャンル好きだわ」みたいに思ったんだったら、それは多分書ける。読者のツボを抑えられるんで。

逆にたまにあるのが、「この作品とかジャンルが嫌いだから、逆のものを書いて面白いと認めさせてやるぜ」みたいな。それで言うと、だいぶ高い確率で失敗するみたいな。そこの感性が合ってるって大事ですよね。

空見:だと僕は思いますね。

片沼:空見さんがヘブバンの感性に合ってたんですね。

空見:そういうことですね。本当にたまたま合ってたのかなみたいな形ですね。

片沼合わせようとせず合ってるっていうのが一番いいと思います。

空見:合わせようとはしてますよ、もちろん。好き勝手には書いてないんで。

仕事の評価軸:書いた量ではなく「採用率」

片沼:チラッと話に出てきて疑問だったんですけど、シナリオライターの仕事とか成果って何で測られるんですか? 書いた量ですか?

空見:これは会社によって違うかもしれないんですけど、基本的には書いた量ももちろん全く測られてないとは思わないんですけど、採用されたかどうか

片沼:書くことと採用されることは違うんですね。

空見:「これあなたにお願いしますね」って任されることもなくはないんですけど、クオリティを上げるってなったときにコンペが結構あるんですね。

いろんなシナリオライターさんに書いてもらった中で一番面白かったやつを採用するっていうパターンがあるんです。声優さんとかキャスティングするときもオーディションテープを送ってもらって、一番いい人を選ぶじゃないですか。それと同じように、シナリオもキャラクターのコンペも、いろんな人から出してもらって、一番いいのを採用する。

それに勝たなければいけないっていうのはあると思います。

片沼:確かにそれ分かりやすいですね。勝ち続ければ出世する、と。それに勝てないと辞めるしかなくなっちゃう。

空見:辞めるか、自分でディレクター側に回るか、別のプロジェクトに入るか、会社変えるかみたいな形になると思いますね。

片沼:そこは実力主義だからこそ、楽しくもあり厳しくもあり、ってところですね。

空見:何人いてもいいみたいな仕事じゃないんで。

片沼:シナリオライターの仕事がだいぶつかめてきましたね。

空見:本当ですか。それなら良かったのかな。歴が全然浅いんで、なってまだ2年とかなんで、しかも一つの会社なんで全部のシナリオライターがそうなのかはわかんないですけど。

僕がやってることと、周りから聞いてる他の会社さんのシナリオライターの話を聞いてると、そうなんかなって感じです。


「最速で辞めたバイト」エピソード

空見:皆さんね、最速でどれぐらいで仕事を辞めたことがあるか不明っていう話を僕は結構いろんな人に聞いてるんですけど、片沼さんは最速でどれぐらいのスピードで辞めたことありますか。

片沼:新卒で入った会社、11ヶ月で辞めてますよ。

空見:11ヶ月じゃないですか。僕は携帯販売員契約社員のバイトを2時間で辞めたんで。

片沼:レベルが違った。

空見:2時間で辞めた。1人契約を取って、「なんかこれは僕のやるべきことじゃないみたいな」。当時10年以上前の若き頃の僕は2時間ぐらいで辞めましたね。

ちゃんとその場の現場の取り仕切ってる人に「すみません辞めたいんですけど」って。

片沼:2時間で。

空見:「まさか君がそんなことを言うとは思わなかったよ」って言われましたね。今でも覚えてるんですけど。本当に「迷惑をかけてすみませんでした」って言って辞めましたね。

っていうぐらいめちゃめちゃやりたくないことがたくさんある人間なんで、今の会社でも迷惑をなるべくかけないように頑張ってる次第ですね。

片沼:それだけ相対的に創作が得意で、楽しくやれてて。

空見これしかやれないんじゃないかなって今思って働いてますね。

片沼:わかりやすくていいですね、何でもできるより。

そんな24時間創作のことを考えるためには、シナリオライターっていう仕事おすすめですね。

空見:そうですね。創作になら何でもいいですっていう人だったらおすすめかなって思いますね。

片沼:いいと思います。

なかなか創作と会社員としての安定みたいなのを両方取れる仕事はそう多くはないですけど、こういうシナリオライターっていうルートが一つあるっていうのを知っておくといいんじゃないかな、というところで、締めに入りましょうかね、そろそろ。


抱負と告知

片沼:最後としては、空見さんのこれからの抱負と宣伝告知があれば、というところなんですけど、何かありますでしょうか。

空見:抱負、抱負——あんまりなんか、どうなっていきたいかは結果だと思うんで。

片沼:面接のときには「やりたいこととかないです」って言ってましたけど、まだないですかね。

空見:そうですね、でも今はありますよ、やっぱり。

みなさんの記憶に残るIPを作りたいなって僕は思ってますね。

片沼:IPもゼロから。

空見長くIPを作りたいなっていう気持ちが、今すごい強いですね、僕は。

そういう意味では、シナリオライターもIPを育てていく仕事ではあるんですけど、一から作りたいな、それこそラノベ作家ですよね。一から企画を立ち上げたいなっていう気持ちは、今どんどん強くなってる次第ですね。

告知

空見:あと告知は、3月22日ですね、僕の初めての漫画原作のデビュー作が出ますので、コミックスピラというところから出ますので、よければ買っていただきたいなというところと、

あと今携わらせているヘブバンが、Persona 5 とコラボするっていう、これちゃんと出てる情報なんで、僕はポロってないんで。ライトフライヤースタジオさんから出てますんで、それを楽しみにしてもらえたらなというところです。

片沼:というわけで、空見さんにゲストに来ていただいて、シナリオライターのお話を聞いていきました。

今日はこんなところで締めたいと思います。またいろんな人——僕の友達とか作家さんの仲間とか呼んでできたらなと思ってるんで、今後も皆さん聞いてる方々楽しみにしておいていただければと思います。

それではまた、お会いしましょう。ありがとうございました。


まとめ

……というわけで、約50分の対談を一気に記事化しました。

Podcast「ラノベ作家はいいぞ」では普段は一人で喋っているのですが、今回は初のゲスト回として、古くからの戦友である空見こはくさんに来てもらえて本当に良かったです。

創作一本で生きていく選択肢として、シナリオライターというルートはやっぱりかなり現実的。しかも空見さんが心底楽しそうに語ってくれたのが、何より印象に残りました。

「やりたくないことが多すぎる人間」が、創作だけは「やりたくないことじゃない」から続けられている——というのは、創作を仕事にしたい全ての人に刺さる話だと思います。

この記事も1.5万字近くになっていますが、それでもニュアンスがかなり抜けているので、気になったトピックがあればPodcast版も聴いてみてください。文字起こしでそのトピックの場所を見つけてタップすれば、音声がそこに飛びます。

最後に宣伝です。

新人賞を3つ受賞した経験を活かして、本気でプロを目指している方に向けたコミュニティの運営などもしています。興味があれば創作指導のページからどうぞ。

それではまた。