どうも、ラノベ作家の片沼ほとりです。
今日は、僕がラブコメを書くうえで最重要だと考えている「上下関係」という概念についてお話しします。
これは、僕がプロとして創作しながら言語化してきた技術のひとつです。なぜこの話をするかというと、新しい視点をひとつ手に入れるだけで、作品のクオリティが目に見えて変わることを実感してほしいからです。
今回ご紹介するのは、実際に僕がアマチュア作家さんの原稿を読み、改善した事例です。これは僕が「上下関係」という視点を持っていたからこそできたアドバイスで、作家さんからは「絶対こっちの方がいいですね、考えもしませんでした!」と言ってもらえました。
なぜ僕がそんなアイデアをその場で即座にひねり出せるのかと言えば、ライトノベルの技術を言語化し、理屈として理解していたからです。
感覚と理屈は、どちらも大切なものです。
僕がアマチュア作家さんの原稿を読むときも、「ここは違和感があるな」「ここはもっと良くなりそうだな」と気づくのは感覚によるものです。ですが、そこから「なぜ違和感があるのだろう」「どうすればもっと良くなるのだろう」と考えるのは、感覚ではなく理屈・技術の力が必要になってきます。
アイデアや閃きと呼ばれるものも、技術によって再現できます。 その一端を、この記事で垣間見てもらえればと思います。
ラブコメでは主人公をヒロインより上位にするべし
まず、「上下関係」とは何かを押さえておきましょう。
男主人公と美少女ヒロインからなるラブコメでは、
主人公をヒロインより上位にもってくる
ことが、気持ちいいラブコメを実現するための原則です。
どういうことでしょうか?
主人公より下位にいるヒロインというのは、現代のラノベ読者が可愛く感じるヒロイン像です。その特徴の例を挙げると……
・ずっと主人公のことを考えてしまうヒロイン
・主人公を振り向かせようと必死なヒロイン
・主人公に軽くあしらわれるヒロイン
・思い通りにいかずに拗ねるヒロイン
こういったヒロインです。
主人公の一挙手一投足に気をとられ、主人公の心を動かそうと躍起になる、そんなヒロインが可愛いのは自明の理ですよね。
これこそ、主人公がヒロインより上にいる構図であり、読んでいて楽しい・気持ちいいラブコメです。
もちろん物語には波があるので、主人公とヒロインの上下関係もシーンごとに入れ替わったりするのですが、おおむね主人公上位の構造で物語は進みます。(逆に言えば、そういう構造になっていないラブコメは「気持ちよさ」以外の感情体験をウリにしている作品です)
この構造が徹底されている好例が、アニメ化も大ヒットした『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(通称ロシデレ)です。この作品は「真似しやすい基本的な技術を最上級のクオリティで実現している」タイプで、ラブコメを書くための再現性の高い技術を多く抽出できます。詳しくは記事の後半で触れます。
では、この「上下関係」という視点を実際に使った事例をご紹介しましょう。
アマチュア作家さんの作品と問題のエピソード
以下の事例は、知り合いのアマチュア作家さんの原稿にアドバイスした、実際にあった話です。
その作品がいずれ新人賞を受賞して世に出る可能性もあるので、作品名や作品内の固有名詞は出さず、構造だけを抜き取ってお話しします。
その作品のログラインを抽象化すると、以下のようになります。
犬猿の仲である高校生の男女に呪いがかかり、
ヒロインが主人公を定期的にドキドキさせないと死んでしまうことになる。
一定以上のドキドキに達するたび、呪いは解除に近づいていく
いかにもラブコメらしい、美味しさが想像できる作品ですね。
「なんであんたをドキドキさせないといけないのよ!」 「そりゃこっちのセリフだ! お前なんかにドキドキするかよ!」
という状態からスタートし、呪いを解こうと協力するうちに、なんだかんだあってお互いに惹かれ合っていく、ケンカップル的なイチャイチャを楽しめます。
そんな作品のお楽しみパートに、次のようなエピソードがありました。
なお、本作の主人公は男の方ですが、これらのシーンはヒロイン視点で描かれます。
・ヒロインは主人公をどうドキドキさせるかを考える。そして、主人公の好きな二次元キャラのコスプレをしてなりきればドキドキさせられるのでは、と思いつく。
・作戦決行。ヒロインは美少女キャラのコスプレをして主人公の元へ赴く。
・主人公はヒロインの作戦に驚く。口では「卑怯な手を」と言いながらも明らかに反応が良い主人公を見て、ヒロインはニヤける。
・キャラクターになりきった会話でどんどん攻めるヒロイン。たじたじになる主人公。
・最後にきわどいポーズで決め台詞を放つことで、主人公のドキドキは最高潮に。呪いの解除に向けて一歩進んだ。
・「私にドキドキなんてしないんじゃなかったの~?」とニヤニヤ煽るヒロイン。
・主人公は「卑怯者め! 次はこうはいかないからな!」と負け惜しみを言って去って行く。
主人公をドキドキさせて喜ぶヒロインが可愛いシーンなのですが……このシーンはもっと良くできます。
あなたには改善策が見えたでしょうか?
このシーンの改善点
前提として、この作品は「気持ちいいラブコメ」として設計されています。
「ヒロインが主人公をドキドキさせないといけない」という設定の時点で、言ってみればヒロインが主人公に奉仕するような構図。主人公がヒロインよりも上の立場にいることは明白です。
そう考えると、各エピソード、各シーンもこの上下関係という視点を意識するべきでしょう。
とはいえ、上のエピソードはヒロインが主人公をドキドキさせるシーンですから、一度はヒロインが上に行くのは問題ありません。
というのも、「主人公をドキドキさせることができて喜ぶヒロイン」というのは、立場が下であることを前提として受け入れており、読者から見て可愛く映るものですから。
なら、このエピソードの問題はどこにあるかというと、ラストの着地です。
このエピソードで、言ってみれば、
主人公は負けてしまっています。
すなわち、主人公がヒロインの下に行っているということです。
「いやいや、ここはヒロインが主人公をドキドキさせるシーンなんだから仕方ないだろ」と思われたかもしれませんが、本当に仕方ないのでしょうか。
おおむねヒロインが上にいるエピソードだとしても、最後に主人公が上に行くだけで印象がガラッと変わります。
僕が提案した改善策
僕が提案し、その場で即採用された案を見ていきましょう。
変更点を太字にしていますので、どんな違いが生まれたかを意識しながら読んでみてください。
・ヒロインは主人公をどうドキドキさせるかを考える。そして、主人公の好きな二次元キャラのコスプレをしてなりきればドキドキさせられるのでは、と思いつく。
・作戦決行。ヒロインは美少女キャラのコスプレをして主人公の部屋へ赴く。
・主人公はヒロインの作戦に驚く。主人公は「卑怯な手を」と言いながらも、「ま、お前にしてはよく考えたんじゃないか?」とヒロインを煽る。
・「絶対にドキドキさせてやる……!」とムキになったヒロインは、恥ずかしさを我慢して、 キャラクターになりきった会話でどんどん攻める。
・すると、予想以上にたじたじになる主人公。ヒロインはニヤつく。
・最後にきわどいポーズで決め台詞を放つことで、主人公のドキドキは最高潮に。呪いの解除に向けて一歩進んだ。
・「私にドキドキなんてしないんじゃなかったの~?」とニヤニヤ煽るヒロイン。
・主人公はヒロインを「演技、すごい完成度だったぞ! おかげでお前じゃなくて二次元キャラ本人だと思い込めたし、ドキドキできたわ!」と、煽りではなく心から褒める。
・目的を達成できたはずなのに、ヒロインはそんな主人公の言葉を聞いて、不満を露わにしながら部屋を出て行く。主人公は「なんなんだよあいつ……」と眉をひそめる。
・一人きりになったヒロインは「キャラじゃなくて私にドキドキしてほしかった」という本心に気づくが、必死に「そんなんじゃないから!」と自分に言い聞かせるのだった。
いかがでしょうか?
ラブコメなので100人いて100人の意見が一致することはないでしょうが、「さっきより良くなった」「ヒロインがより可愛くなった」と感じた方の方が多いと思います。
なぜ良くなったのかを言語化してみる
ではなぜ、ヒロインの可愛さが増したのでしょうか。
その理由を理解するキーワードはもちろん「上下関係」です。
このエピソードの冒頭では、いわば二人の間に「勝利条件」が設定されます。ヒロインが主人公をドキドキさせられたら勝ち、逆にさせられなかったら負け、という風に。
といっても、ドキドキが達成されないとまずいという状況は二人とも同じなので、本当は勝負ではなく協力なのですが、少なくともヒロイン側はそう思っています。
そして目論見通り、コスプレという案が功を奏し、ヒロインは主人公をドキドキさせます。ヒロインは「勝った」と確信しますし、読者から見てもヒロインが上に行ったように見えます。
ここまでは元の原稿と同じです。
そして元原稿ではそのまま、主人公が「負けた」と言ってしまうのですが……僕の改稿案では、ラストに新事実を提示することで逆転を起こしています。
すなわち、「実は主人公は、ヒロインの努力を好意的に受け止め、二次元キャラだと思い込むことでドキドキしていた」という事実です。
この事実によって、上下関係の逆転が起こります。
ヒロインは勝負のつもりだったのに、主人公は勝負だとすら思っておらず、軽くあしらわれた。この構図って、ヒロインが下ですよね?
ヒロインは「自分がドキドキさせた」と思っていたのに、実際は「自分ではなく二次元キャラの方がドキドキさせていた」と分かる。これも、主人公がヒロインの思惑通りになっていない、すなわちヒロインが下になっています。
そして、思い通りにならなかった主人公に対して歯噛みし、悔しさを感じた自分に戸惑う。
このように、主人公が上に立つ要素を追加することで、ヒロインの可愛さが増しているわけですね。
そして、ここでのポイントは
一度は「勝った」と思わせてから、
「実は負けていた」という構図にすること。
改善案では最終的に主人公が逆転するわけですが、もしも最初から最後まで主人公が優位に立ち続けていたらどうでしょうか。
すなわち……
・ヒロインはコスプレ姿で主人公に迫る。
・しかし主人公は「コスプレしても中身はお前なんだしドキドキしねーよ」と一蹴。
・実際、ヒロインは主人公に迫るが、主人公は全然ドキドキしてくれない。
・主人公が「キャラの話し方や決め台詞を真似てくれ。そうすればお前じゃなくてキャラがいるって思い込めるから」と提案。
・ヒロインはそれに従う。無事にドキドキを達成したが、ヒロインは不満げ。
確かにこの展開なら主人公がずっと上にいますが、面白さが半減してしまった感じがしませんか?
「主人公を手玉にとっている」と思い込んでいたヒロインが、実は自分の方が踊らされていた、勘違いだった。そのギャップがあるからこそ、よりヒロインが可愛く見えるのです。
そして実は、「ヒロインは勝っていると思い込んでいる」というのは、ロシデレと同じ構図です。
アーリャさんは政近にボソッとデレることで「自分は政近をからかっている=勝っている」と思い込んでいる。だけど実は、政近はロシア語が分かるので、そのデレが伝わっています。その事実を伝えるとアーリャさんが可哀想だから、黙ってあげているだけ。読者は「実は政近が勝っている」と知ってるわけです。
ロシデレの場合はここがキーとなるシチュエーションなので、すぐに「実はロシア語がわかる」ことをアーリャさんに明かすことはありませんが、今回題材とした作品では、すぐに明かすことによって可愛さに繋げられますね。
新しい視点を知ることの重要性
以上、新視点を活かした具体的な改稿事例の紹介でした。
全体のストーリー上「コスプレでドキドキさせることに成功させた」という展開は必須でしたが、そこを変えずとも、ちょっとした工夫によって上下関係を調整できました。
さて、なぜ僕がこのようなアイデアをその場でひねり出せたかと言えば、作品の良さを言語化し、自由に使える武器にまで昇華できていたからです。
上で紹介したのは1つのエピソードの改善ですが、この視点をすべてのエピソードで意識すれば、さらにはログライン決めなどの段階で意識できていれば、作品全体のクオリティが大きく上がるのは想像に難くないでしょう。
実際この作家さんに上下関係の視点を説明したところ、理屈としてしっかり納得してもらえたようで、他のシーンもすべて見直すと言っていました。きっとこの作家さんは、今回のアドバイスで「上下関係」という視点をマスターし、二度と忘れることはないはずです。
技術は、誰でも後天的に学べます。
自分で新しい技術・視点を発見するのは大変で、そこで諦めてしまうアマチュア作家さんも多いのが現状です。だからこそ僕は、こうして自分が持っている技術を惜しみなく言語化してお伝えしています。
ひとつの視点を手に入れるだけで、作品は確実に変わります。あなたの創作の役に立てば嬉しいです。
それではまた。



