どうも、片沼ほとりです。

先日Xにて、

「とある魔術の禁書目録」など「とある」シリーズ/「魔法科高校の劣等生」など「魔法科」シリーズ/「世界でいちばん透きとおった物語」

などのビッグタイトルを担当されている編集者・なかじーさんとスペース(生放送)を行いました。

と言いつつ、実はなかじーさんは僕の担当編集でもあります。

僕が作家志望者に向けた指導・発信をしているという話から、「もしよかったらスペースとかやりますよ」と言ってもらったので、「ぜひ」とお願いさせていただきました。

今日のテーマ

  • アマチュアからはなかなか知れない編集者の仕事
  • アマ向け/プロ作家向けと段階別のアドバイスを
  • ヒット作家に携わっているからこその話を

などと準備した結果……気づけば、3時間ぶっ通しで話していました。

アーカイブも残していますが、さすがに全部聴くのは大変だということで、こうしてテキストで要点を残します。

編集者の仕事の裏側を知りたい方、プロ作家になりたい方、作家として長く活躍したい方、ぜひお読みください。

自己紹介と今日の趣旨

片沼:まずはお互い自己紹介しましょうか。

僕は片沼ほとりと申しまして、ライトノベル作家をやっています。その傍ら、本気でプロを目指しているような方——新人賞を取りたいという方に向けた創作指導もしていて、専門のコミュニティも運営しています。

なかじー:ストレートエッジという会社で小説の編集者をやっています、中島と申します。

ストレートエッジは簡単に言うと作家さんのエージェント会社で、作家さんから作品をお預かりして、書籍化やメディアミックスの橋渡しをさせていただいてます。

片沼さんとは、自分が主催させていただいたプロットコンテストの第1回受賞者ということで担当させていただいていて、電撃文庫さんから「俺にだけ小悪魔な後輩は現実でも可愛いが、夢の中ではもっと可愛い」——略称こあゆめで覚えて帰ってください——の担当をしています。

片沼:なかじーさんの口からはあんまり言わないと思うんで僕が言いますけど、タイトルに書いてある通り、「とある魔術の禁書目録」や「魔法科高校の劣等生」、文芸だと「世界でいちばん透きとおった物語」とか、結構でかいタイトルを担当されている編集者です。

なかじー:いわゆる版元の編集者さんとはちょっとやってることも価値観も違うところはありつつも、ラノベの編集ってどんなこと考えてるの、とか、作家さんをどういう基準で選ぶの、みたいな話ができたらいいかなと。

また前置きとして……今日の話は、あくまで私がそう思っている、私がこうやっているっていうのを前提にお話しします。版元さんとか編集者ごとに違う考え方の人もいると思うので、こういう例があるんだなっていう一つのケースとして聞いてもらえると嬉しいです。


編集者の仕事とは

一言で表すと「売れる作品を作ること」

なかじー:まずラノベ編集の仕事って何だと思いますか? 一言で表すと。

片沼:一言で……。最低限やらなきゃいけないのは、円滑に本を出すとか会社を回すとか、この辺じゃないですか?

なかじー:そうですね、その辺は当然大事かなと思いつつ、自分がこの仕事を一言で表すとすると——売れる作品を作ることだと思ってます。

ここで大事なのが「売れる」なんですよ。「面白い」ではないんですよ

片沼:面白ければ何でもありじゃないんですね。

なかじー:面白いって誰がどうやって決めるんですかって話で。主観じゃないですか。

この人にとっては面白い作品でも、この人にとってはイマイチっていうのが山ほどある。だから「面白い作品を作る」っていうのは判断が難しいんです。

もちろん自分の担当作は全部面白いと思って世に出してるし、面白いと思わないとそもそも企画を通さないし通せないんですけど。

でも悲しいかな、書籍を出すってビジネスなんですよ。売れないと次が出せない。特にラノベだと、そのシリーズの続編もそうだし、その作家さんの次の作品も出せない。

だから編集者として目指すところは、売れる作品を作ることなんじゃないかなと。

面白い作品を作るのは作家の仕事

片沼:じゃあ作品のクオリティを上げるっていう仕事はどうですか?

なかじー:もちろん頑張ってますし、より良くしていかないといけないし、多少はできてるかなとは思うんですけど。

編集者が20点30点の作品を80点まで上げられるかっていうと、そんなことないんですよ。70点80点の作品を90点まで上げる、くらいしかできないと思っています。だってそもそも大幅に引き上げることができたら編集者をやってなくて作家やってるはずだから。

片沼:つまり、

面白い作品を作るのは作家の仕事で、それを売れる形にするのが編集の仕事

っていう。

なかじー:そうです。作品のクオリティを上げるっていうことももちろん大事なんですけど、比重としてはそれよりも、どうしたら売れるのかを考えて、自分個人だったり組織の力を使って実際に売るのが編集者の仕事かなと。

どちらかというと作家さんに見せてないところでどれだけ頑張れるか、どれだけ作品に貢献できるかっていうのが、自分としてはラノベ編集の本懐かなと思ってます。

具体的に何をしているのか

片沼:世間で言われてる編集者像と結構違いますね。じゃあ具体的にどんなことをやってるんですか?

なかじー:まず当然ながら作家さんとの打ち合わせ。作家さんによってメールだけじゃなくてLINEだったりDiscordだったり手段はいろいろで、打ち合わせもなるべく対面でやりたいなとは思ってるけど、兼業作家さんは平日の昼は無理だったりするのでリモートでもやります。

特にまだ組んで浅い方とは対面の方がいいですね。人となりとか空気感を掴みたいので。

片沼:僕の時も最初は対面で会いましたね。今はもう慣れたので基本オンラインですけど。


なかじー:次に、イラストレーターさんやデザイナーさんの選定とやりとり。

作品の企画をいただいた段階とか、打ち合わせである程度詰まってきた段階で、まず作家さんにイラストレーターの希望を聞いて、自分と合致したらその方でいくし、そうじゃなかったらこちらから提案してすり合わせてっていう感じです。


なかじー:タイトルやキャッチコピー、あらすじの作成は基本的に編集者がたたきを作って、作家さんとキャッチボールする形です。こあゆめのタイトルはプロットコンテストの提出時からあったものをそのまま使いましたけどね。

片沼:あらすじは僕が書いたところもありますけどね。2巻の時になかじーさんからたたきが来て、「いや、こっちの方がおもろいでしょ」って。

なかじー:そうそう、当然そういうキャッチボールは発生しますけど、最初の蹴り出しはこっちからかなと。

片沼:このあたりまでは作家からも見える場所というか、割と知られてる編集者像ですね。


なかじー:宣伝施策の検討と素材作成もやります。

今は本が売れない時代で、そもそも作品を知ってもらうハードルがめちゃくちゃ高い。だから編集者としても、どうやったら認知してもらえるかを考えるのは大事な仕事です。

公式サイトやXで画像を使って告知したりしますけど、ああいうのも結構編集者が手弁当でやってます。

片沼:手弁当感ある画像とかもたまにありますよね。

なかじー:やめてあげて(笑)。PhotoshopとかPowerPointとかで頑張ってるんで。予算がないんですよ……。

コミカライズの営業と監修

なかじー:コミカライズなどメディアミックスの営業もやります。

今のラノベって基本的に小説単体じゃなくて、メディアミックスで認知を広げていくのが主流なので、「こんな小説があるんですけど、コミカライズやりませんか?」って漫画編集部に営業したりします。

片沼:こあゆめも素晴らしいコミカライズが連載中なんですよね。

なかじー:ただこあゆめは特殊ルートで。小説を読んだ漫画家さんが「私、これのコミカライズやりたい」って、漫画の編集部に自分から直撃したらしいんですよ。

片沼:なかじーさんも「聞いたことない」って言ってましたよね。

なかじー:かなり珍しいルートですね。だからですかね、漫画家さんの熱量がとても高い作品だなって。それがちゃんとクオリティにも出てるかなと思ってるので、ぜひコミカライズ版もチェックしてもらえると嬉しいです。


なかじー:アニメ化とかになってくると、あらゆるものが原作側に「これ問題ないか見てください」って回ってきます。脚本やコンテはもちろん、公式サイトのキャラ紹介テキスト、缶バッジのデザインまで。

片沼:缶バッジまで来るんですか。

なかじー:何でも来るんですけど、これ全部作家さんに見せたら執筆できなくなるじゃないですか。作家さん、缶バッジのデザインチェックしてる暇あったら小説書いてくださいって

だから、最初に作家さんにどこまで監修したいかを確認したうえで、自分が一次チェック、ここは作家さんに確認した方がいいなっていうものだけ渡して、残りは自分で見て戻してます。


なかじー:アニメになってくると、脚本会議(本読み)っていうのもありますね。

片沼:これは全然想像つかないです。どんな感じなんですか?

なかじー:脚本会議は監督、脚本家、シリーズ構成、プロデューサーが複数人、原作側の人間って感じで10人前後はいることが多いかな。比較的対面でやることが多いですね。人数が増えるとオンラインだとクロストークしづらいので。

アニメの最終的な決定者は監督なんですよ。小説で言う作家に当たるのが、アニメでは監督。

とある+魔法科だけで20プロジェクト

片沼:今何作品くらい担当してるんですか?

なかじー:数えたことないんですけど……。

区分作品・本数
とある(小説+コミカライズ)小説5シリーズ/コミカライズ4作品
魔法科(小説+コミカライズ)小説含む/コミカライズ7作品
この2シリーズだけで約20プロジェクト(アニメ含む)
全担当作全体で40〜50くらい

今ぱっと数えただけなので抜け漏れあるかもしれないんですけど。

片沼:……1日のスケジュールは?

なかじー:うちの会社はコアタイムすらなくて、働く場所も自由なんで。自分だと朝9時か10時くらいに始めて、一旦18時で切り上げます。

片沼:一旦?

なかじー:プライベートのことやって、21時か22時くらいから仕事再開。先々の打ち合わせのための原稿を読んだり、メールを返したり。日によってタスク量が全然違くって、打ち合わせ7件の日とかもありますよ。

片沼:……忙しいですね、編集者さん。

なかじー:基本的に編集者って才能がない人たちだと思ってるんですよ、自分は。

才能のある人たち——作家さんやクリエイターさんと肩を並べてお仕事させてもらうには、何か犠牲にするしかないでしょ。そしたら差し出せるのって時間ぐらいしかないよねって。

片沼:だいぶ人によって価値観違いそうですけど、それがなかじーさんの価値観なんですね。

なかじー:ですね。編集者って黒子であるべきじゃんみたいなところは正直あるので、あんまり表に出てもな、わかるように頑張ってるアピールしてもなっていうのは思ってます。

……編集者の仕事についてはだいたい話せたので、ここからは作家向けのアドバイスを段階別で話しますね。


プロを目指すアマチュア作家へ

エンタメを摂取して「面白い」を言語化する

なかじー:アマチュアの方にまずやってほしいのは、小説じゃなくてもいいんでエンタメをいっぱい摂取して、「面白い」を言語化してほしいんですよね。

面白い作品って面白いって言われる理由が当然あると思っていて。それを「なんか面白い」ではなく、「こういうところが面白いと評価されていると自分は思っている」と。

必ず正解にたどり着かなくても、考える癖づけをしてほしい。その考えが積み重なれば、自分はこういう作品を書いたら面白いと思ってもらえるっていう理論ができてくると思うんですよね。

片沼:感覚派の作家でもそれはやってますよね。

なかじー:そう。感覚派って、言語化はされていないだけで体に染みついちゃっているので、たぶんやってることは基本一緒なんですよ。だからこのプロセスは、プロになるための必要な能力として続けてほしいです。

片沼:僕の方から補足すると、僕はラノベ新人賞を取るために実はラノベばっかり読んでた人間です。

当時、ラノベの感覚が全然足りてなくて、ラノベを読んだ数が3作品しかなかった。だからラノベに求められているものをそもそもわかってなかったんですよね。

その状況ではラノベを集中的に読むのが有効だった。自分がどういう状況で、何が足りてないのかも含めて考えるっていうのが大事かなと。

なかじー:補足するなら、エンタメとしての面白さのロジックとは別に、文庫1冊で展開できる物語の規模感は身につけた方がいいと思っていて、それを身につけるにはやっぱりラノベを読むしかないので、そういう観点でもラノベは読んでほしいですね。

打席にたくさん立つ

なかじー:新人賞にいっぱい応募するとか、Webでいっぱい投稿するとか。アマチュアの方がプロになるにはどこかで編集者の目に留まる必要があるわけなので、まずは打席に立ちましょうと。

そしてヒット作の構造を分析する癖づけをしていく。あとは意外と日本語って難しいので、人にわかりにくい文章にならないように意識してほしいですね。

レーベル選びは慎重に

片沼:打席の話でいうと、僕は倍率の低い賞を狙うのも手だと思ってるんですよ。実際、僕自身が集英社ライトノベル新人賞のIP小説部門とか、ストレートエッジプロットコンテストとか、初開催で知名度が高くない賞から受賞してるんで。ひとまずデビューしてしまえば、どこからデビューしたかはあんまり関係ないのかなと。

なかじー:自分はちょっと違う意見で。やっぱりどのレーベルからデビューするかって結構大事だと思っていて。シンプルに、大きいレーベル、勢いのあるレーベル、売ってくれそうなレーベルからの方が、スタートラインとして有利じゃないですか。

レーベルごとに新人作家の扱い方って今結構違うんですよ。デビュー作が何巻まで出てるか、2作目を同じレーベルから出してるか。調べれば見えてくる。

片沼:デビューはゴールじゃなくて次のスタートラインだと考えると、有利なスタートラインを選んだ方がいいってことですね。

なかじー:そうです。倍率が低いから出すっていう判断もありだけど、倍率だけじゃなくて、このレーベルはこういう特徴があるよねっていう分析をした上で、自分なりの基準を持って選んでほしいかなと。

仲間づくりと創作論の取捨選択

なかじー:仲間づくりについて。同じ志の仲間を見つけるのはいいことです。モチベーション維持になるし、実際にデビュー率が高い集団っていうのはあるので。

ただし、注意点もある

  • そこに所属していることに満足しちゃう
  • お互いの作品に必要以上に干渉して、良くない方向に転がる
  • そもそも指摘が合っているか、判断できるだけの能力がお互いにまだないかもしれない

距離感は節度を持って。

片沼:僕のコミュニティでもメンバー同士の読み合いをやってるんですけど、みんなが僕の理論を学んだ上で同じ前提で話せてるから、自由にやるよりは実のある議論ができてる印象はありますね。

なかじー:そういうのは良い仕組みですね。

あとは実績のわからない人のアドバイスとか創作論は一旦スルーすることをおすすめします。少なくとも自分でその創作論が正しいか判断できるようになるまでは、プロとか、ちゃんと実績がわかる人の発信を参考にした方がいいです。

片沼:正しい確率は高いですね。とはいえプロが言ってるから正しいって盲信するのも違うので、やっぱり自分の頭で考えるのが大前提。

ラノベで厳しいジャンルはあるか

片沼:リスナーから質問が来てます。「ラノベで厳しいジャンルはありますか?」

なかじー:ちょうどXで「ラノベでロボットはダメ」論が話題ですけど、編集側からするとロボットはしんどいです。メカのイラストは原稿料が高くて、描ける人も少ない。ラノベの予算感だと頼める人が限られるんですよ。

片沼:とあるロボラノベの後書きに「イラストレーター見つからなくて1年かかった」って書いてありました。

なかじー:他に話題になっているものに触れておくと、群像劇は確かに難しくて、キャラが増える分、一人あたりに割ける文字数が減って魅力を表現するハードルが上がる。スポーツは読者の知識差があるので目線の合わせ方が難しい。

片沼:「このジャンルはやめとけ」ってよく言われますけど、言葉だけが一人歩きしてますよね。

なかじー:そうなんですよ。それぞれちゃんと理由があるので、その理由を理解した上で選ぶべきだと思います。

片沼:昔は「普通の主人公じゃないとダメ」って言われてたけど今は全然違うし、百合がダメとかファンタジーがダメとか言われてた時代もあった。

なかじー:読んでる人の価値観が変われば当然セオリーも変わるんで、鵜呑みにしないでほしいですね。


プロデビューの前後で気をつけること

オファーに飛びつかない

なかじー:受賞しました、書籍化のオファーが来ました。嬉しいですよね。

でもまず一回落ち着きましょう。そのレーベルでいいか考えましょう。

特にWebで掲載してる方に言いたいんですけど、そのレーベルってちゃんと作品を売ってくれますか?

デビューって一度きりなので、デビュー作があまり振るわないとその後の作家人生にも影響する。ちゃんと推してくれそうか、同じレーベルの他の新人作家が2作目書けてるかとか、見てほしいんです。

片沼:お金の話もした方がいいですよね。

なかじー:日本人は嫌がるけど大事です。印税率とか部数とか。後回しにすると痛い目を見る可能性がある。お仕事なので。オファーに承諾する前に確認しましょう。

著作権法と契約書

なかじー:**著作権法は勉強しましょう。**自分の著作物にどんな権利があるのか、譲渡できるものとできないものがあるとか。知らないと気づけない落とし穴がある。

なかじー:読みましょう。マジで読みましょう。

募集要項もそうだし、プロになった時の契約書もちゃんと見た方がいいですよ。

契約書って読みにくいんですよ。なんでかっていうと、分かりにくい方が騙し通せるから。だと私は思ってるんですけど。

片沼:よく言われるネタですけど、真実なんですかそれ。

なかじー:分かりやすく書いてあったら「ここ不利じゃないです?」って言われるじゃないですか。だから契約書ってわざとわかりにくくなってるんだろうなって。だからこそ読む練習をしてほしい。少なくとも「難しいから読まなくていい」ではなくて、読もうとする努力をするところから。

特に気をつけてほしいシーン

新興の企業やIT企業がエンタメに参入してきた時。

  • IT業界のセオリーで契約書を作ると、出版業界の慣習よりガチガチになりがち
  • ゲーム業界は関わる人数が多くて権利が分散するから、パブリッシャーに権利を集約させる傾向がある
  • その契約文化が当たり前の会社が小説の世界に来ると、小説の常識とは違う契約書になったりする

どちらが良い悪いの話ではないけれど、契約書を読まないことで想定していない事態になることもあるので気を付けてください。

SNSの注意点

なかじー:**SNSはやった方がいいです。**今は作品を知ってもらうハードルがめちゃくちゃ高いので。ただ、投稿内容は気をつけてください

例えば、AI生成イラストを普段から多用している作家さんに対して、イラストレーターさんから「この人の仕事は受けたくない」って断られるケースが実際にあるんですよ。

思想とか制度の話は一旦置いといて、クリエイターさんとの感情の問題として。作家さん自身が意識してないところで思わぬ余波が出ることがある

片沼:僕もなかじーさんに言われてXを始めましたね。

なかじー:あとね、受賞したりするとテンション上がって、創作論を語り出す人がたまにいるんですけど。

片沼:僕のことじゃないですか。

なかじー:片沼さんは振り切ってるからいいんですけど。そのキャラでやるなら振り切ってください。

新人ぺーぺーが「こうすると作品は良くなる」みたいな語ってると、「ほほえましいな」って思われて、後から恥ずかしくなるので。やらないことをおすすめしますよ。

担当編集との関係

なかじー:担当編集とは適度な距離感を持ってください。

自分は作家さんと一緒に作品を二人三脚で作っていく仲間だと思ってるし、基本的に編集者ってそういう人が多いと思います。よくXだと担当編集にこういうことされたって良くない話が目立っちゃうけど、みんながみんなそういう編集じゃないんで。敵視しないでほしいです

でも、だからすべてなあなあでやるのもよくないですよね。例えば、打ち合わせでの指摘って全部飲む必要ないんですよ。ただその指摘にはおそらく何か意図があるので、納得できるようにお互い対話する姿勢は持ってほしい。

逆に、編集の言うこと何も聞きませんって最初からシャットアウトされると、この人のために頑張ろうってモチベーション湧かなくないですか。

片沼:僕も最初に聞かれましたよね。「ちゃんと相談に乗れますか?」って。

なかじー:言いました。プロットコンテストはさらに特殊で、プロットから作るタイプの仕事だったので、相談頻度が高くなると思って、あらかじめ確認しました。

わからないことは聞ける人を見つける

なかじー:わからないことは担当編集に聞いてもいいし、同じレーベルの先輩作家さんに聞けるとベストですね。

最近はコロナも落ち着いてきて、受賞式とか謝恩会とか、レーベルで集まる機会が復活してきてるので、そういう場では積極的に声をかけていくのがいいんじゃないかなと。


プロ作家として長く続けるために

作家友達を作る

なかじー:悩みを理解してもらえるのは同じ立場の人です。お仕事やってるとままならないこととか、もやもやすることっていっぱい出てくると思うんですよ。

それをムカつくってSNSに書いちゃうとよくないので、吐き出すならせめてクローズな場に。その線引きは持ってほしいです。

交流会やイベントには参加する

なかじー:レーベルのイベントや交流会は積極的に参加するといいですよ。意外と仕事につながります。自分もちょっと前に交流会的なイベントでご縁があった作家さんと、じゃあ何かやりましょうかって企画を準備してたりしますし。

片沼:質問から。「デビューした人が別レーベルの編集者に企画書や原稿を営業するのって、今でもあるんですか?」

なかじー:確度低いですよ。出版社の問い合わせフォームに持ち込みするのと同じくらい。

他のレーベルでお仕事したいなら、そのレーベルで書いてる作家さんと仲良くなって「紹介してくれない?」って頼むのが一番です。

そしたら編集にピンポイントで狙いをつけられるし、比較的読んでくれますよ。もちろん、実力だったり人間性だったり、紹介しても大丈夫だと思ってもらう必要はありますけどね。

駆け出し作家は関東が有利

片沼:謝恩会とか交流会のことを考えると、住む場所も大事ですか?

なかじー出版業界って村社会じゃないですか。未だに人との繋がりとか仁義みたいなものがまかり通ってる世界だから、対面の接触回数が増える方が有利。駆け出しは特にそう。軌道に乗ったら地方でも戦えると思いますけど、最初は関東の方が絶対有利ですよ

契約書は毎回読む

なかじー:レーベルごとに契約書の内容は違います。一つ目のレーベルではこうだったのに、別のレーベルだと全然違う条件になってることが普通にある。大手だから大丈夫とは限らないし、気を抜かずに毎回ちゃんと読みましょう

片沼:おかしいなと思ったら言えばいいんですか?

なかじー:言えばいいと思いますよ。言って直るかは別の話ですけど。

直らなかった時に、その契約を結ぶのか結ばないのか。結んだら納得いかないけど本は出る。結ばなかったらそのチャンスは見送りになる。シンプルな話です。

でも少なくとも、悩める土俵には立ってほしい。脳死で契約書にハンコ押すよりはずっといい。


片沼:質問から。「売れなかった時に打ち切りの連絡をするのも編集者の仕事なんですよね。メンタル大変そうです」と。

なかじー:しんどいです。

作家さんも当然しんどいし、読者さん目線でもなんでだよって思うと思う。自分も昔読者だった時そう思ってました。

でもビジネスでやっている以上、続きを出すのがどうしても回収できない時はある。

売れる作品を作るのが編集の仕事だと言った以上は、売れなかった責任は編集にあると思ってるので、それを伝えるのは編集の仕事かなと。だから売りましょうと思ってます。


ヒット作家になるには

一番は運

片沼:ヒット作家になるために必要なことは?

なかじー一番は運だと思います。頑張ったら売れるかっていうと、決してそんなことない。最後はタイミングとか、作ってる側には操作できないものの割合が高い。

片沼:確率を上げるためにやれることは?

なかじー作家さん側も市場分析をしましょうと。どういう作品が流行ってるか、他の媒体でのトレンドは何か。常にアンテナを張っておくと自分のに置き換えられたりする。

自分の武器を確立する

なかじー:あとは自分の武器やスタイルを確立すること。ファンがつくような要素って絶対あるんですよ。

片沼:具体例で言うと?

なかじー:鎌池和馬さん(「とある」シリーズ著者)の武器はキャラ造形だと思ってます。

キャラクターをいっぱい作っても物語を破綻させないし、御坂美琴っていうキャラが一人歩きしてレールガンっていうスピンオフに広がったのは、キャラを作る力が強かったから。

逆に魔法科の佐島勤さんは世界観構築ですね。魔法っていうファンタジー的な要素をSFに落とし込んで、あの世界観を構築できたのが佐島さんの武器なんじゃないかなと。

人それぞれ武器があるので、同じプロットを違う作家が書いても、誰が書いたかわかります。鎌池さんと佐島さんなら100%当てる自信あります。担当作家さん全員だと……8割くらいかな。

ヒット作家はバイタリティが高い

片沼:ヒット作家をたくさん見てきたと思うんですが、その共通点って何かありますか?

なかじーバイタリティが高い

ヒット作が出たらちょっと満足するとか、その作品頑張ればいいやってなってもおかしくないと思うんですけど、ヒット作家さんって「次もっとすごいのをやろう」って思ってる人が多い。

鎌池さんなんて今でも「新作書いたんで読んでもらえますか?」って突然来ますからね。むしろヒット作家さんの方がぐいぐい来る印象です。

片沼:創作中毒みたいな。

なかじー:多分そのくらいにならないといけないんだろうなって気がしてます。

鎌池和馬さんの初稿は荒い

片沼:リスナーからの質問です。「鎌池先生は速筆で有名ですが、初稿がすでにほぼ完成品なんですか? それとも修正を繰り返してるんですか?」

なかじー:基本的に後者です。初稿は荒いです。本人も荒いって言ってます。

打ち合わせを大体3回はマスト、多いときは4〜5回。結構ガラッと変わって世に出てます。

初稿も普通に完成度高いですよ。高いんだけど、改稿に手を抜かないというか、クオリティ上げることにはめちゃくちゃこだわりを持ってる方なので。

片沼の武器は?

片沼:せっかくなので僕についても聞きたいんですけど。僕の武器って何だと思いますか?

なかじー:片沼さんは明確な武器があるタイプっていうよりは、ロジカルに作っていって、市場分析も含めてロジックで勝負するタイプの作家さんだと思ってます。Web作家さんに多い傾向な気がしています。

片沼:「Webの方が合ってるよ」って、アマチュア時代から周りに言われてたんですよね。逆に僕としては、正解のない新人賞に正解となる理論を追求するのが楽しくて。

なかじー:いいんじゃないですか。得意なこととやりたいことって必ずしも一致しないので。とはいえ、片沼さんの基本思想がロジック側なら、そっちに尖らせた方が勝ち筋はあると思いますよ。

新人賞の手本となる作品はあるか

片沼:最後にもう一つ質問が来てます。「新人賞の手本になるような作品はありますか?」

なかじーないと思ってます

「これを抑えてるから受賞する」っていうポイントって、たぶんないんですよ。「これができてないから選考を通過しない」はあるけど。

……片沼さんにロジカルって言った後でこういうの、嫌だなって思いながらしゃべるんですけど。

新人賞、特に電撃大賞に関して言うと、ロジカルに作ったものよりも、荒削りだけどなんかすげーって思える作品が求められているんじゃないかなと。

片沼:レーベルによっても違うので分析が大事ですね。まあまあ、その辺は僕の方が詳しいので、僕のもとに来てください。


まとめ

……というわけで、3時間の会話を一気にまとめました。

編集者がなかなかオープンにここまで語ることはないので、貴重な資料になりました。改めてなかじーさんに感謝を!

この記事も1万字をとっくに越えちゃってるんですが、正直細かいところとかニュアンスがかなり抜けているので、気になったトピックがあれば実際の音声も聴いてみてください。

新人賞を3つ受賞した経験を活かして、本気でプロを目指している方に向けたコミュニティの運営などもしています。興味があれば創作指導のページからどうぞ。

それではまた。